私がおすすめする本です
私は認知症介護を始めてかれこれ10年以上になります。当初は「認知症と言うのはとても楽だなぁ、だって自分が間違えたことに気がつかないんでしょ」と思っていました。
私が初めて入った認知症の介護施設ではみんな思い思いのことを話していて、会話ができる人は半分ぐらいで、残りの人たちはベッドに寝たままだったり、お布団に入ったままおトイレの介助を受けていたりする方たちでした。
この人たちは悪い事はしないけど 意思の疎通は無理なんだなと思っていました。
そんな中で認知症を患っている人たちをあまりにも見下すような態度を平気でする介護職の人たちを見ることになりました。
困りごとを抱えている人たちに対して「いちいちうるさい」とか「こっちの言うことを聞けばいい」とか「どうせあんたたちはわかんないんだから」と言うような態度を取る人たちがいました。
今思うと怒りをこみ上げてくるようなそんな声かけをしている人たちが介護職でありヘルパーさんでした。
私は納得がいかず、すぐに「介護職の常識非常識」と言う集まりを作って私が見ている介護職が普通なのかそれともおかしいのか知りたくて当時の近くの人たちに声をかけてみました。
20人近くの人が集まってくれ、実際に起きていることを話をしてみると「そういうのってあるのよね」と言っていました。
この問題は私の周りの問題だけではなく、私の問題をはるかに飛び越えて大きな問題になっていました。困りごとを抱える人をケアするはずの施設が実は「困りごとを感じる人たちのあきらめの場所」になっていたと言うことです。
それから10年以上が経ち認知症を取り巻く環境は大きく変わってきました。
逆に言えば毎日のように新しい情報が出たり、また私が目に触れるのがたまたまその日だったりして、毎日新しい発想や思いや考え方や行動や法令や政策やまた政治的な扱いなどたくさんのファクターが認知症を取り巻いていました。
現場の介護職をしているとそのような介護に対する考え方と言う視点がどうしても欠落しがちです。
これはどの業界でもそうでしょうが、自分がその内側にいると学びを忘れてしまうようです。特に介護職のような行動重視で業界が浅く、それでいて直接人に触れるお世話と言う分野では技術と言う考え方よりも面倒を見ると言う考え方の方がはびこっているようです。
このような考え方は古くからありました。
昔認知症の人が家族に出ると「奥の間に閉じ込めたりまた拘束をして自由にさせない」
そんな行為すら平気であったと聞いています。
昭和の後半には精神病院が「認知症は精神病の1つ」として薬でおとなしくさせられていました。また入院すると二度と出ることができないと言われた精神病院の中に隔離されるようなものでした。
しかしこの原因はなぜなのでしょうかと考えてみました。
認知症の人たちはどのような思いで暮らしているのかということを考えてみれば比較的すぐにわかりました。
多くの介護車は自分たちの視点に立って認知症の人たちを語っていたのです。わかっているつもりになっていたと言われればその通りですよね。だって実際に行っている人や実際にそこにいる人ではなくその人たちに関わる支援職の人たちの言葉を聞いていたのです。
他のことにこのことを当てはめてみればマラソンを走っている人の辛さを知りたいのにマラソンを応援している人にマラソンとはと尋ねているようなものです。本当に走りそのための練習を重ねてきて辛い練習に耐えそして精神力を鍛え実際に筋力もつけてきた人にしかわからない事を周囲の応援者に聞いてわかるでしょうか。
だからこそ当事者にどのような思いを持っているのかを尋ね、当事者の視点で物事を見なくてはいけません。
認知症について一番しっかりと向き合っている当事者の人たちが考える「認知症のこと」を知る必要があります。そうでなければそれこそ「絵に描いた餅」になってしまうでしょう。
このように書いていると「認知症の人が語れるの?」と言う人がいますが認知症の人は語れないと思っていることこそ大きな誤解です。
認知症は何もわからなくなる状況ではありません。
苦手なことがあります。
そして苦手なことがゆっくり進行していくそういう環境にある人たちです。
ある意味私たちと何の変わりもありません。
嫌なことがあり楽しいことがあり面白いことがあり 悲しいことがある。
私たちと全く同じ環境を生きている人たちなので、「語れない」と考えているのはあなたの誤解です。
そんな内容を認知症の当事者の丹野智文さんが描いてくれた最新刊の本が下にあります。
ぜひお手元にとって読んでみてください。
読み終えてみるときっと皆さんの心の中に認知症と言うものについて語っているだけではなく人生の捉え方全体について語っているものです。ある意味営業をする人たちにとって心底魂をかけて向き合ってきた丹野さんの言葉は心に染みるでしょう。
認知症の事について語る丹野さんの言葉を聞いて多くの介護職の方たちは目から鱗なのかもしれません。
しかしそのようなことでは情けなく感じてしまうことも現実です。
それでも介護職の方たちは目を背けずにこの本をしっかり読んでもらうことが必要です。
認知症の当事者として他の当事者と語り合う丹野さんの言葉は認知症の方を抱える家族の人にとってもきっと全く新しい視点でしょう。認知症の方を一緒に暮らす家族の人たちだからこそわかっていなかったこと、してしまっていたこと、誤解していた事が多くあることに気づきます。
私が絶対に伝えたい事はもし認知症の方と接していく場合その人はあなたと何の変わりもありません。それは皆さんが首を振りたくなるでしょうが重度の認知症で言葉が通じないと思っている方にとっても同じです。逆に言えばあなたが描いている認知症を押し付けてしまっている可能性があるんですよ。
それは現実的ではないし何よりそこに困りごとを持っている人に対して何もしていないどころかかえって環境悪化し辛い思いをわざわざ押し付けそしてより苦しい思いをしているからこそ出てきてしまう少し困った行動を作り出しているのです。
あなたの目の前にいる方がもし認知症になったら、変わるのはあなたです。認知症の人を変えるのではなくまず最初に健常者である私たちが先に変わりましょう。だって困り事の量が目の前の印象の方はあなたの想像を超えているのですよ。私たちは今変わることができます。変わることができる人が先に変わりそして手を携え共に歩んでいきたいと思います。
ぜひこの本を手に取って最後までしっかりと読み込んでください。
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